全日本最優秀ソムリエの阿部誠氏に聞く、「シャンパーニュを熟成させる意味」

全日本最優秀ソムリエコンクール第三回大会優勝、卓越した技能者「現代の名工」受賞など輝かしい実績を持ち、現在はシャンパーニュ『パルメ』のブランドアンバサダーを務める、シャンパーニュのスペシャリスト、阿部誠氏によるシャンパーニュコラム第5弾!

今回は「シャンパーニュを熟成させる意味」について解説していただきます。

シャンパーニュを造るには長い時間が必要

阿部さん

第4回では、瓶内二次発酵について解説をさせていただきましたが、今回はその次の工程である「熟成」についてです。瓶内二次発酵はおおよそ7〜10日くらいで終了します。そして長い月日の熟成期間に入ります。法律的にはヴィンテージ表記のないもので瓶詰めから最低15ヶ月、表記のあるものは36ヶ月の熟成の規定があります。

1本のシャンパーニュを造るのに最低でも1年半近くかかるのですね。高価なのもうなずけます。

阿部さん

実際には多くのメゾンではこれらの規定よりも長い期間の熟成を行うんですよ。では何故長い期間が必要なのでしょうか?

熟成期間の長さはシャンパーニュの色合い、泡、そして香りや味わいに大きな影響をもたらします。元々、酸のレベルの高いブドウを使って造られるシャンパーニュは酸化の進行が他のワインと比べて進みにくい傾向があります。つまり他のワインと比べてゆっくりと酸化熟成が進むのです。そのために長い熟成期間が必要とされます。

「酸が高い」からこそ長い期間が必要になってくるのですね。

熟成による変化① 色合い

阿部さん

長い熟成期間を経て、色合いはゴールドのニュアンスが加わり、深みのある色調へとゆっくりと変化します。

シャンパンゴールドって色がありますもんね!色もシャンパーニュの大事な要素ですよね。

熟成による変化② 泡のきめ細かさ

阿部さん

シャンパーニュの最大の特徴である泡にも変化があり、持続性があり、きめが細やかになります。このきめの細かさは時間をかけなければ成し得ることが出来ない事です。
グラスに注いだ時にグラスの底から立ち上る細やかな泡立ちは見た目の印象を優雅に特徴づけ、また口中では柔らかいムース状になり、エレガントさやふくよかさを感じる事が出来ます。

熟成による変化③ 香り

阿部さん

それに加えて、香りでは全体的に熟れた印象へと変化し、例えばフレッシュな果実だったものがコンポートなどの印象となり、さらには蜜やカラメル、スパイスなどの香りが加わり、複雑さを増していきます。またパンやビスケット、タルトなどの香りも感じるようになります。

パンや焼き菓子のような芳ばしい香りも特徴的ですよね。

阿部さん

これらの変化の多くは、瓶内二次発酵を行い、その役目を終えた「酵母」と一緒に長い時間をかけて熟成をすることで起こります。それは酵母が時間の経過と共に自己分解を行い瓶内のシャンパーニュにアミノ酸を放出し、香りに複雑さ、味わいに旨みを与えます。化学的には他の反応もありますが、まずはシャンパーニュを楽しむのにはこれらの知識で充分と言えます。

「時間(とき)を感じる」という楽しみ方

阿部さん

長い熟成期間を経たシャンパーニュは、出荷に向けて酵母を取り除き、最終的な味わいの調整を行い、コルクを打ち直して、ラベルを貼り付けてようやく製品化され、皆様のもとへと届けられます。それらのシャンパーニュは、ブドウの収穫から考えると5年以上の時間を経ているものも少なくありません。シャンパーニュは「時間(とき)を感じる」という楽しみ方もあるのです。

次回第5回のコラムでは「シャンパーニュと料理の相性」について詳しく解説していただきます。こうご期待!

阿部誠さん
2002年、第3回全日本最優秀ソムリエコンクールで優勝し、その後世界ソムリエコンクールの日本代表として出場。ホテル西洋銀座から、都内レストランの支配人兼シェフソムリエを経て、2004年に独立し、東京・銀座に「サロン・ド・シャンパーニュ・ヴィオニス」を開業。一般社団法人日本ソムリエ協会常務理事。2020年、卓越した技能者「現代の名工」受賞。